焦らなくていい、とお兄は畳みかけた。

「お前の気持ちは二人だけでゆっくり聞かせてもらう。今夜はあずの誕生祝いだからな、台無しにするのは勿体ないだろう」

柔らかな響きに俯かせてた顔をおずおず上げる。いつものお兄だった。愛しむ眼差し、仄かな笑み。倉科で隆二の手を取ってから、怖くて厳しい声ばかり聴いてた気がする。

張り詰めてたものが不意に緩み胸が詰まった。()い交ぜの感情が込み上げ、瞳からひと粒ふた粒こぼれ落ちる。

「今日はこれで引き取ってくれませんか、柳さん」

「水入らずを邪魔する気はないよ?」

凛としたお兄のトーンに、歌うような口調が返り。あたしの目尻をやんわり拭った長い指。

「じゃあね、赤ずきんちゃん」

涙の幕越しに艶めかしい笑い顔があった。咄嗟だった。離れかけた手を追ってスーツの袖口を掴んだ。

「待っ」