ずるずると、隆二から剥がれ落ちた視線がお兄に吸い寄せられる。今なんて・・・?

「柳さんはお前にとって毒にしかならん。初めは甘い、だがいずれその毒があずを殺す。・・・俺が卑怯な嘘を言ってると思うか。生まれた時からお前を何より大事にしてきたこの俺を、柳さんより信じられないか」

ひと言ひと言が頭の天辺からじわじわと染みてきて。髪を頬を、肩を胸を濡らしてく。真っ直ぐにあたしを貫く眸の奥がひどく悲しそうで。大好きな顔を見てられない。

いつの間にか土砂降りの雨に打たれてるみたいだった。背中の羽根が水を含んで、どんどんどんどん重くなった。重みで軋む。裂けそうに傷む。

お兄を信じなかったことは一度だってないの。石ころ一つ転がってない、平らな道をあたしのために選んで、ずっと手を引いてくれたのはお兄。

知ってるの、分かってるの。お兄が言うなら本当なんだってこと・・・!

「お前はまだ二十四だ。他の男を知らず、柳さんだけだと決めつける自分が正しいと、俺の目を見て言えるか?いっときの感情に任せるな。普通に幸せになれる道がこの先いくらでも、あるんだぞ」

静かに包み込むように諭す声。愛情って名前の傘をずぶ濡れのあたしに差しかけて。