まさか親に挨拶・・・って妄想が、頭の隅に一瞬もたげたのを自分で打ち消して。アレよ、鷺沢の付き合いかなにかよ。うん、きっとそう。

チャコールグレーの三つ揃いに、ワインレッドのシャツ、シャンパンゴールドのネクタイ。髪もきちんと後ろに流すと纏う空気が段違い。一緒にいるうちに、本物の隆二はこっちだってことを忘れかける。

「仕事じゃなくてさ。千倉の敷居またぐのに着替えたんだけど、オマエの好みじゃない?」

あたしを見上げた不思議そうな眼差し。・・・・・・・・・。え?

「一緒に来るの?!」

もう一回バッグが足許に転がった。

「そりゃねぇ、一人で帰せない」

肘掛けに頬杖ついて、やんわり他人事みたいに笑ってる。

「大事な宝物なのに」