勢いあまって素足で三和土(たたき)に駆け下りたあたしを、お姫様抱きしてリビングのソファに降ろし。有無を言わせず足の汚れを拭う志田がおもむろに口を開いた。

「・・・柳は女の為に生きも死にもしませんよ」

前で屈む姿に、わりと大きくなっても靴を履かせてくれたのを思い出しながら。大人しく耳を傾ける。

「お嬢が惚れたのはそういう男です」

それきり(つぐ)んで志田は帰った。

生きも死にもしない。耳の奥にフレーズが残ってた。あたしは漠然とその意味を掴みかけてたのかもしれない。

頭を一振りして立ち上がる。小腹を落ち着かせたら洗濯物も干さなきゃ。壁時計に目をやり、隆二が来るまでの時間割に集中した。今は考えない。甘く笑う顔しか声しか思い出さない。

今は。