隆二と結ばれたあの日。会社を休んだ事を自分から懺悔した時、スマホ越しに黙って聴いてたお兄は、許すでも許さないでもなく、ただ最後に。

『大事なお前の為なら俺はいつでも鬼になる』

その全部が愛情なのも痛いほど身に染みてる。優しいお兄を鬼にしたいわけでも苦しめたいわけでもない。だけど自分の気持ちを曲げられないなら・・・!

傷付けるのを、傷付くのを、躊躇ってたらその先に進まない。秋生ちゃんとハルトさんの後押しに、お腹の底がきゅっと引き締まった。

「・・・ありがと。勇気出たから飛び込んでみる」

「大丈夫!梓には、この秋生ちゃんがついてるんだからね?」

心強いお墨付きに思わず目が潤むと、ジョッキを呷った彼女が芝居がかった含み笑い。

「ヤナギさん、このコお酒入ると涙もろくなるからー。よその男の前で泣かせると大変だからー」

「知ってる。我慢できなかったよ?可愛くてさ」

「キス泥棒の話?まあそっちは結果オーライだけど、それ以外(ほか)で泣かせたらお兄さんより前に息の根止めに来ますねー」

「オレを本気で脅せるのはアリスちゃんくらいだなぁ」

「怖い物知らずで可愛いんですよ、オレの女」

愉しそうに物騒な会話を弾ませてる三人に囲まれながら。何気ない幸せがくすぐったい夜だった。

言わなかったけど心に決めてた。半月後の誕生日にあたしなりのけじめを付けること。お兄に羽根をもぎ取られても、地を這ってでも。必ず隆二の許に帰るのを誓って。