隆二は、ああしろこうしろって押し付けたりしない。言葉じゃないもので繋いで、どこにも行かせないって躰に教え込んで、あたしに選ばせた。

“来る?”
“明日は?”
“帰らなくていいのに”

空いてる部屋のクローゼットに着替えと、洗面化粧台やバスルームに増えた小物を眺めては、どことなく愉しげで。

ずっとここにいるって言えば、『いいよ』って笑うだけなんだろう。機嫌良さそうに煙草をくゆらす男をそっと盗み見た。

「・・・ちゃんと筋を通してからと思って」

「誰に?頑固なお兄さん?そんなの待ってたら、あっという間におばあちゃん」

零した本音を秋生ちゃんが一蹴する。

「気持ちは分かるけど、引き返すつもりないなら死ぬ気で飛び込んじゃいなさいよ。必死になれば泳げてるもんでしょ人間は」

「溺れてもオレが助けるから安心しな」

涼しそうに澄ましたハルトさんの掌が頭の上にぽんと乗った。