お兄に掴まれてた肩は、後になって指の形に痣が残ってた。痛さも憶えてなかったくらい一瞬のことだった。

やんわり口の端を緩めてるのは紛れもなく、あたしが知ってる彼に違いなくて。垣間見たものが何だったか。分かってなかった、その時はまだ。

「黙って赤ずきんちゃんを攫っとけば良かった?筋を通しに来た意味、分かんない淳人じゃないよなぁ」

シャツの胸ポケットからシガレットケースを取り出すと、口に咥えた煙草に火を点ける仕草。

「・・・渡せません」

「頭冷やして出直せよ」

険しい表情のお兄。ゆっくり紫煙を逃す柳さん。固唾を呑むあたしの生殺与奪の権はどっちの手の内。

二本目の吸いさしも足許に放りながら。柳さんがあたしに目を細めた。

「おいで」

掌を差し出す。吸い込まれそうに甘い顔で。

「どこに行こっか、二人で」