「・・・柳さんはお前が思うほど生易しい男じゃない。どうしようが手に余るだけだ。もう会わないと俺に約束してくれるな?」

心臓の奥の奥まで刺し通す静かな声。お兄に躊躇はなかった。縋った望みが砕ける音がした。項垂れたまま唇を噛みしめる。

理由もなしに諦めさせるお兄じゃない。それくらい頭は冷えてる。理性と感情がぶつかり合う。火花を散らし、あちこちを焼き焦がしながらあたしを追い詰めてく。

ずっとお兄が全てだった。お兄が黒と言えば黒、白と言えば白。疑うことなく絶対的な信頼で。今だってお兄が間違ってるなんて露ほども思ってない。

YESって言えばお兄を困らせない、苦しめない。やっぱり知りもしないあたしが柳さんを見誤ってるだけ?

ねぇお兄とどっちを信じるの?誰より愛してくれてるのはどっち?解りきってる。泣くならお兄の胸で泣けばいいって解ってるけど・・・っっ。

「梓」

(いたわ)るような優しい声音に返事を促された。握りしめた掌にさらに爪先が食い込む。

「・・・お兄、あたし、は・・・ッ」