ひとりになった私は、とりあえず自分の服を脱ぎ大迫が貸してくれたTシャツとジャージに着替える。
シャツもズボンもぶかぶか……大迫、細く見えるけどやっぱり体つきは男の人なんだな。
改めてそんなことを考えながら、私はベッド上にごろんと寝転がった。
お酒の力もあり、ほどなくしてうとうとと瞼が重くなってきた。
ふかふかな毛布と、柔らかな枕。なんだかいい香りがする。
部屋の香りとは違う……大迫のシャンプーの香りかな。
あの頃と変わらない、ただの友達のままの関係。
なのに、大人になった私たちはどこか違うようにも感じた。
彼の香りに包まれて、眠りに落ちるなかで思い出す。
私が大迫に対して、友達以上にはなれなかったきっかけを。
高校3年生の夏、大迫はお母さんを事故で亡くした。
心配する同級生や先生に、大迫は一度も弱さを見せたことはなくて
『大丈夫』
そう毅然とした態度でいた。
だけど時折、ふとした瞬間に見せる彼の遠い目が切なく胸を締め付けた。
大丈夫、と小さく笑う彼の言葉が強がりに見えて、悲しくて苦しかった。
つらいなら泣いてくれたらいいのに。
どんな大迫だって、受け止めるのに。
そんなきもちが胸にあふれて、9月半ばのある日。ふたりきりの放課後の教室で、私は彼に問いかけた。
『大迫、大丈夫?』
『なにがだよ』
『……時々、悲しそうな顔してるから』
つぶやいた言葉に、彼の涼しい目が揺れるのを見た。
『泣きたい時は泣いていいんだよ。弱くたっていいんだよ。だから、ひとりで我慢しないで』
できるなら、あなたが頼る相手が私だったらうれしい。
でも、もしも私には見せられないものなら、他の人にでもいいから。
だから、ひとりで抱えないで。我慢しないで。
悲しい気持ちを押し殺さないで。
そんな気持ちで言葉を伝えた、けれど。
彼はそれ以上の言葉を遮るように、バン!と机を殴りつけた。
『……うるせぇんだよ。お前に、なにがわかるんだよ』
俯く彼のその言葉に、なんという気持ちが込められていたのかはわからない。
だけど去っていく後ろ姿に、自分が踏み込みすぎてしまったということだけはわかった。
それ以来、話すことはおろか目すらも合わないくらい避けられてしまった。
告白どころか、友達という関係にすら戻れなくなってしまった。
踏み込みすぎた、でしゃばりすぎた。
なにも知らないくせに。
私は、ただのクラスメイトでしかなかったのに。
そんな自分が情けなくて恥ずかしくて、彼のことも、彼への恋心も忘れようと蓋をした。
だけど、どうして。
今更少しずつ蓋はひらいて、中から気持ちがこぼれだす。
年月を経てもまだ、今の彼にも愛しさを感じてしまう。



