愛がなくても、生きていける




お母さんが言いたくなる気持ちもわかるけど……。

でも恋愛とか結婚とか、今の自分では考えられない。

そんな相手もいないし……私には、資格もない。



立ち止まりかける、ヒールの低いパンプスを履いた足を必死に進めた。



それから少し時間を潰して、迎えた待ち合わせ時刻。

時計の針が18時を指す少し前に、待ち合わせ場所の銀座へと向かい、大迫と合流した。

直前まで仕事だったのだろう、今日の彼は前回と違ってストライプ柄のワイシャツにジャケットといった姿だ。



「いきなりで悪かったな、やっと予定が空いてさ」

「ううん、どうせ暇だったから」

「ま、そうだよな。独身だもんな」



鼻で笑う彼をジロりと睨みつける。そんなやりとりにまた大迫はおかしそうに笑ってみせた。



話しながらやってきたのは、とあるビルの地下に入ったお店だ。

入り口の看板に『Spain bar』と書かれていることから、スペインバルのお店だと察した。



赤いソファ席とレンガの壁を基調とした店内は、隠れ家のようなムードが溢れている。

カウンター席の一番奥に通され座ると、大迫もとなりに座る。前回より近い距離感に、思わず心臓がドキリと跳ねた。



「清水、なにか苦手なものとかあるか?なければ適当に頼むけど」

「うん、特にないから大丈夫。お酒もワインから日本酒までなんでもいけるクチ」

「そりゃあたくましい」



大迫は小さく笑いながら、カウンター越しに店員さんへ声をかけた。

そして少しすると、私たちの前にグラスが並べられる。

小さなワイングラスの中に注がれているのは、赤色のサングリアだ。

一杯目は軽い口当たりのものから、という大迫の気遣いが感じ取れた。



「じゃあ、とりあえず乾杯」



大迫のひと言を合図に、互いにグラスをコンと合わせた。