駅まで続く道のりを歩きながら、穏やかな午後の空を見上げる。心の中はまだ夢見心地だ。
久しぶりに大迫と過ごした時間は、楽しかったなぁ。
小さな教室で、お互い制服に身を包んでいたあの頃の空気と変わらないものを感じた。
『清水、お前その成績ヤバくね?赤点とかどうやったら取れるんだよ』
『うるさいなぁ。大迫だってギリギリ赤点回避の点数のくせに!』
『ギリギリだろうと赤点のやつとは違うんだよなぁ』
からかう彼に言い返して、そんなじゃれあうような会話が、やりとりが、楽しくて好きだった。
居心地の良さは恋愛感情となって、いつしか私は彼のことを好きになっていた。
だけど友達以上にはなれなかった。
私が、踏み込み過ぎてしまったせいで。
……でも今日のことも思い出のひとつにしなきゃ。
どうせもう、特別な理由がなければ関わることも会うこともないと思う。
先行き不安なフリーのフォトグラファーと、方や会社を持っている社長。
同級生というだけで、これ以上はなにも起きないだろうし。
飲みに行こうなんて言葉も、どうせ社交辞令だろう。
いちいち本気にするくらい、子供じゃない。
そう肝に銘じた、5日後の昼のことだった。
『今夜、飲みどう?』
先日大迫と交換したメッセージアプリを通じて、彼からきた一通のメール。その文面に私は目を疑った。
飲みって……社交辞令じゃ、なかった。
驚き戸惑い、それと同時に嬉しさを感じながら、私はすぐ『いいよ』と返事を返す。
少しして、大迫からは待ち合わせ場所や時間についての返信があり、私はふたたびあわててクローゼットを開けた。
まさか、本当に誘ってくれるとは思わなかった。
大迫も少しは、先日の時間を楽しいと思ってくれたということかな。
そう思うといっそう嬉しくて、私は服を決めてメイクをして、髪に念入りにコテをあてる。
するとそこへ、たまたま母が部屋の前を通りがかった。
「あら、どうしたの念入りに身支度して。もしかしてデート?」
「別に、そういうのじゃないけど……」
「もう、そろそろそういう相手くらい作りなさいよ!でもって結婚!フリーのカメラマンなんて聞こえはいいけど不安定なんだから!早く身を固めなさい!」
『結婚』『不安定』、実家に戻ってから毎日のように言われる言葉だ。
親としては間違ってない意見だとわかるだけに耳が痛く、私は「はいはい」と流すように答えながら身支度を終え、少し早くに家を出た。



