【沙智へ
これを沙智が読む頃、お母さんはもうここにいないのでしょう。
沙智に伝えたいことがあって、看護師さんにお願いをして手紙を遺しています。
子供の頃から沙智には苦労ばかりをさせてごめんね。
いつも仕事ばかりだったお母さんのことを気遣いながら家のことをこなしてくれる、そんなしっかり者の沙智が、頼もしくもあり申し訳なくも思いました。
正直お父さんを亡くしたとき、もう生きていけないと後を追うことを考えました。
でも沙智の笑顔を見ていたら、あなたのために生きていかなきゃ、あなたのためなら生きていける。そう強く思いました。
母子家庭ということで、沙智にも苦労をかけたかもしれません。ごめんね。
でも沙智がいつも笑顔で『お母さん』と呼んでくれたから、それだけで毎日頑張れました。
本当にありがとう。
お母さんが病気になってから、沙智には本当に気苦労ばかりかけてしまいましたね。
でも最近の沙智はなんだか楽しそうで、そんな沙智を見るのがお母さんにとっての最近の楽しみです。
沙智、これからは自分のための人生を、自分のために歩んでいってください。
ひとりは寂しいでしょう。孤独感はつらいでしょう。
でもこの先いろんなことを知り、いろんな人と出会い、その繰り返しの先には楽しいことが沢山待っているから。
そのために、生きていてください。
沙智が笑ってくれていたら、それだけでお母さんは安心です。
それだけで、お母さんがこの世界に生きていた意味はあったと心から思えます。
これからも大好きな沙智へ。
お母さんより】
便箋には涙のシミがいくつかついており、それはきっと記した看護師さんのものであると察した。
お母さん……。
こんな時まで、私のためを想ってくれていた。
その大きな想いで胸があふれて、手紙を抱きしめながら私の瞳からは大粒の涙がこぼれだす。



