「中村、さん……?どうして」
「病院の人が昨日、沙智ちゃんのお母さんが亡くなったこと、教えてくれたんだ。
それで、どうしてもこれを届けたくて」
中村さんがそう言いながら開けた白い箱の中にはなんと、沢山の桜の花びらが敷き詰められていた。
「前に沙智ちゃんが、お母さんが桜の花が好きだって話してたでしょ。それを思い出して、せめて見送るときに桜を見せてあげたくて」
「でもまだこの辺り桜咲いてないのに……」
「うち、実家が神奈川にあるんだけど。その家の庭に毎年早咲きの桜の木があることを思い出して、そこから摘んできちゃった」
急いで摘んでかけつけてくれたのだろう。その手にはいくつかの枝に引っ掛けたような傷がついている。
「いいんですか……こんなに沢山、中村さんのおうちの木から」
「もちろん。花も、誰かに寄り添えるのなら喜んでくれるよ。
だから花屋として、お母さんにこのお花を贈らせていただいてもいいかな」
私はただの客でしかない。
これは彼の花屋としての優しさでしかない。
だけどこんなにも真摯に花を届け、心に寄り添ってくれる。それだけで、充分だ。
嬉しさに涙が出そうになるのを堪えながら小さく頷いた私に、中村さんはそっと微笑んで頭をぽんと撫でた。
それから葬儀屋さんに事情を話すと、納棺師の人が棺桶の中の母を包むように桜の花を敷き詰めてくれた。
母の青白かった肌に桜の色がうつり、どこかあたたかみがでたようにも見える。
「……あと、これ」
中村さんがジャケットの内ポケットから取り出したのは、一枚の封筒だ。
これは、と受け取るとそこには『沙智へ』と綺麗な文字が書かれていた。
「これは……?」
「病院の看護師さんが、お母さんのこと教えに来てくれた時に渡してくれたんだ。沙智ちゃんのお母さんが亡くなる数日前に残した手紙だって」
「お母さんが……」
ここしばらく、もう文字を書く力などなかったことから、きっと声に出したものを看護師さんに書き留めてもらったのだろう。
私は封筒から便箋を取り出し、内容を読んだ。



