自分の気持ちを恋だとはっきり自覚しても、この関係を壊したくなくて伝えることはできなかった。
けどそれでもいいと思っていた。
だって、辰巳の一番近くにいるのは自分だと思っていたから。
いつか気持ちを伝えられるときがきて、恋人になって、結婚する日がくるはず。そのときまでは今のまま、仲間として一番近くで支えられたらいい。
そう……自惚れていたんだ。
『初音、大事な話があるんだけど』
けれどその自惚れは半年前、残業後のふたりきりの休憩室で打ち砕かれた。
『実は俺、結婚するんだ』
照れくさそうに辰巳が言った、その言葉の意味がすぐには理解できなかった。
『え……?』
『あ、いや、いきなりこんな話されて驚いたよな!いやー、なんか気恥ずかしくて彼女できたことも初音にはなかなか言えなくてさ』
結婚、彼女、そんな話これまで辰巳の口から聞いたことなかった。
ただただ唖然とするしかできない私に、辰巳は純粋に驚いていると思ったようで、頬をかすかに赤らめながら照れ笑いをみせた。
『実は取引先で知り合った子に告白されて、それから一年くらい付き合ってて。同棲の話から結婚しようかって話になったんだ』
『一、年……』
『あ、まだ他の誰にも言ってないんだから言うなよ。俺にとって初音は特別だから、一番に教えたんだからな』
“特別”、だなんてこんな会話で聞きたくなかった。
それは、仕事仲間としての“特別”。
異性として、恋愛対象としての“特別”ではない。
好きな人が結婚する。
それどころか一年前から恋人がいて、自分の知らないところで愛は育まれていた。
次々と押し寄せてくる事実に、頭の中は混乱する。
けれどその動揺を辰巳に気付かれるわけにはいかない。
今この彼への恋心を知られたら、きっと仲間としての特別ささえ失くしてしまう。
かすかな冷静さでそれだけを判断すると、私は口角を持ち上げ声をしぼり出す。



