愛がなくても、生きていける




「こら、花乃(かの)!ひとりで先に行かない!」



それはなんと中村さんで、娘さんを捕まえ抱き上げるその姿に息が止まりそうになった。



中村、さん……。

今日はお店を早く閉めたのだろうか。きっと家族で買い物に出ているのだろう。

ということは、つまり。



息を呑み、中村さんと娘さんの後ろから続いてやってきた女性を見る。

その人は肩ほどまでの黒い髪に、色白で綺麗な顔立ちをしていた。背はすらりと高く、中村さんの隣がよく似合う美人だ。



「侑吏も花乃も、早すぎ……ついていけないんだけど」

「ほら、花乃。花乃が先に行っちゃうとママがついていけないって。ママと離ればなれになっちゃうよ」

「はーい、ごめんなさぁーい」



舌ったらずな言い方で、口を尖らせて言う娘さんと、それを抱きしめ笑う中村さん。そして、それを優しい微笑みで見つめる奥さん。

その姿はまさしく親子で、夫婦で、愛し愛される関係で。



家族を見つめる中村さんの目は優しい。

けれど、いつも私に向ける優しさとはきっと違う。

私はただの客でしない。ただ彼が親切心でブーケ作りに付き合ってくれているだけ。



……わかってた。わきまえてた、はずなのに。

山のようにいるあのお店の『客』のひとりという立場を実感して、思い上がっていた自分が恥ずかしくなった。