愛がなくても、生きていける




それから中村さんは私の休日の火曜と金曜、週に2回ブーケづくりを教えてくれることになった。

時間はお店の客入りが落ち着く午後。店内奥のコーナーで、カウンターを目の前に私と中村さんはふたりで並んで立つ。



「今日はなんのお花にしようか。お母さん好きなお花とかある?」

「春っぽい色合いのものがいいです。ピンクとか白とか」

「いいね、じゃあスイートピーとかどうかな」



中村さんはそう言いながらピンク色のスイートピーを取り、私に手渡した。

私はそれを受け取ると、慣れない手つきで束にする。



「本当はお母さん、桜の花が好きなんです。だから私も、いつもピンク色の花ばかり選んじゃうんですよね」

「桜かぁ。今年は咲くのが遅くなりそうって言ってたから、開花ももう少し先だね。そうだ、咲いたら桜のブリザードフラワー作ろうか」

「えっ、いいんですか!?」

「うん。でも難しいから覚悟しておいて」



いたずらっぽく笑う中村さんに、私もつられて笑う。



「昔から毎年春になるとお母さんとふたりでお花見に行くのが恒例だったんです。お母さんにとって桜の花は、お父さんと見た思い出の花だからって」

「あれ、そういえば沙智ちゃんのお父さんって……」

「私が3歳の頃、事故で亡くなりました」



声も顔も、まともに覚えていない父。

だけどその分、母が父のことを沢山教えてくれた。

私に似た目をしていて、線の細い雰囲気の人。口数は少なかったけれど、花が好きな母のために毎年桜を見に連れて行ってくれた、と。



「だから私にとっても桜の季節は特別なんです。……でも今年は見せてあげられないかもしれない、それだけが心残りで」



現実を思い出して、ふとした瞬間に心が暗くなる。

けれど中村さんはそんな心を包むように、私の手元の花を明るいピンク色のラッピングペーパーでそっと包んでくれる。



「沙智ちゃんが作った花束を見て、お母さんにとって特別な花が増えるといいね」

「特別な花……なんて、思ってもらえますかね」

「もらえるよ。俺は親の立場で考えちゃうけどさ、自分の子供が俺のために花を選んでブーケを作ってくれたりしたらもう泣いちゃうね」



言いながら想像したのか、中村さんは涙を堪えるように目頭を押さえる。

娘さんのこと、大好きなんだな。

愛情でいっぱいの彼のあたたかさに、この心も不思議と明るく照らされるのを感じた。