愛がなくても、生きていける




中村さんに連れられるがまま、シャッターを閉め切った花屋の横を通り、裏口のドアから中へ入る。



そこは休憩室のようで、3畳ほどの部屋にローテーブルとテレビ、ストーブが用意され、脇には小さなキッチンカウンターもついている。

部屋の中に置かれた女の子用の色柄のブランケットやクッション、おもちゃから、日頃奥さんや娘さんが来るとこの部屋を使っているのだろうと察した。



中村さんは部屋に入ると私を座らせる。

そしてブランケットを膝にかけてくれるとヒーターをつけて室内を暖めて、鍋に牛乳を注ぎ沸かした。



「あの……すみません。中村さん、帰るところでしたよね」

「ううん、気にしないで」



中村さんはいつもと変わらぬ明るい口調で言う。

徐々に室内があたたまってきた頃、鍋から湯気が出るのを見て中村さんはカップを用意する。



「はい、どうぞ。外寒いから体冷えたでしょ」



そう言いながら彼が差し出したのは、ホットココアだった。

湯気から漂う甘い香りをかぎながらひと口飲むと、温かさと優しい甘さが全身にじんわりと広がった。



「おいしい……」



ついつぶやいた言葉に、中村さんは小さく笑いながら自分の分のカップを手に、私に向かい合う形で座った。



「ホットミルクで作るココアって美味しいよね。うちの娘が大好きでさ」

「そういえばうちのお母さんも、ホットミルクで作ってたかも……」



どこか懐かしく感じるのは、幼い頃母も同じようにココアを淹れてくれたからだと思い出した。

幼い私と、若かった母。ふたりで笑い合った冬の夜を思い出して、また自然と涙がこぼれた。

それとともに、温まった喉から言葉がするりと発せられた。