「これまでの手術で、卵巣、卵管、子宮、さらに大腸などを取り除いています。それに加えて抗がん剤も……それでも少しでもよくなるよう我々も手を尽くしてきましたが、転移がもう脳まできてるんです」
「そんな……」
「もうこれ以上の手術や治療を乗り越える体力が、ゆうこさんにはありません。あとは……残りの時間を痛みなく過ごせるようにケアすることしかないかと」
それから先の、先生の言葉は頭に入ってこなかった。
部屋を出る時に看護師さんが肩をさすりなにか励ましの言葉をくれた気がするけれど、それもまた、うまく音として耳に入らなかった。
お母さんの余命が、あとわずか。
呆然としながら病室へ戻るとベッドの上の母は静かに眠っており、相変わらずいくつもの管につながれたままだった。
私が置いたままにしていた花は看護師さんが活けてくれたようで、花瓶に綺麗に飾られている。
「……また、来るね」
今はそれだけ言うのが精いっぱいで、力なく病室をあとにした。
それから私は、家に帰る気にもならず病院内のエントランスにあるベンチに座って時間を過ごした。
ただ呆然とするしかできなくて、21時を過ぎた頃、看護師さんから『もう面会時間も終わりだよ』と声をかけられてようやく外へ出た。
昼間はあんなに肌に感じた寒さも、今ではなんとも思わない。
「……帰らなきゃ」
数時間ぶりに発した声は、掠れていた。
スニーカーを履いた足は病院前の道を一歩踏み出す。けれど、すぐに立ち止まってしまう。



