愛がなくても、生きていける




看護師さんたちから聞いた話では、中村さんは奥さんとの結婚をきっかけにサラリーマンを辞め、奥さんの実家であるこのお店を継いだのだという。

聞けば大手医療機器メーカーで働いており、お給料もかなりよかったのだと思う。

けれど、それらを全て投げてでも奥さんとともにお店を継ごうと決めた……なんて、まるで恋愛ものの漫画やドラマのヒーローのようだ。



「よし、できた」



その声とともに、中村さんは私へブーケを見せる。

綺麗に混ざり合った黄色と白の花がまるで春の訪れを告げるようで、この心を明るくさせた。



「素敵。中村さん、ブーケづくり上手ですよね」

「一応花屋ですから。といっても、嫁さんに相当しごかれたんだけどね」



あはは、と笑いながら彼がこぼす『嫁さん』の名前に胸がチクリと痛む。



「……奥さんもブーケお上手なんですか?」

「うん。うちの奥さんはアレンジメント系全般上手だね、コンテストとかも出してるくらい」



奥さんの話をすると嬉しそうに緩む顔。その表情はいつもの接客業としての笑顔とはまた違うものだ。

奥さんへの愛しさを感じさせて、泣きたくなる。



……私はあくまで『お客さん』だから。だからそれ以上を求めちゃいけない。

『お客さん』だから、優しくしてくれる。笑いかけてくれる。

気持ちを知られたら、避けられてしまうかもしれない。



だからこの恋は胸に秘めたまま。

週に数回、数分会えるだけのこの時間を愛しく思う。



「はいどうぞ、お母さんに喜んでもらえますように」



笑顔でブーケを差し出す、彼の薬指には銀色の指輪が輝く。

その輝きにまた切なさを覚えながら、私はブーケを受け取った。