「あー……うん、まぁね」
「やっぱり本当なんですね。実は、元カノさん別れたとたんいろんな人に中村さんの悪口ばっかり言ってるらしくて~」
佐々木さんは『ここだけの話』というような口調で言う。けれど高く通る声ではっきりと言うものだから、この場の人間にはしっかりと聞こえているだろう。
「中村さんのこと『顔だけ』とか『つまらない男』とか言ってるみたいで、何様って感じですよね!私だったらそんなこと絶対言わないし、どんなところも受け止めるんだけどなぁ~」
元カノにあれこれ言われている俺に対して、同情やフォローをしているつもりなのだろう。
その上でつまり最後の『私だったら』の部分を言いたいだけなんだろうと察する。
けれど、元カノにどう言われているとか、そんな話を周囲から聞かされるのは正直気分のいいものではない。
でも不快な反応をすれば、場の空気を悪くするだろう。
要領よく生きてきた俺は、こういう時、余計な素直さはいらないと知っている。
どんなに不快でも反論したくとも、笑って流すことが最善だ。
……そう思うのに、うまく笑えない。
歪みそうになる表情を、堪えるように歯をくいしばった……その時だった。
「で?」
抑揚のない声が、たったひと言その場に響く。
驚き声の方向へ視線を向けると、そこには座敷の入り口でメニュー表と注文表を手にした里見さんの姿がある。
同じく驚きを隠せない様子の佐々木さんが、里見さんを見ながら口を開いた。
「え?今里見さん……『で?』って言いました?」
「えぇ、言いましたよ。『それであなたはなんて言ってほしいんですか』って意味を込めて」
はっきりと答えた里見さんに、さっきまで丸い目をしていたかわいらしい顔は一瞬で引きつる。



