「里見さん。どうかした?」
「先日提出いただいた経費申請書、修正箇所がありましたのであとでメールで返信お願いします」
「はーい、わかった。わざわざごめんね」
「いえ、たまたま姿を見かけたところだったので」
そう言って彼女は思い出したように自分の手元のバインダーを見る。
「あと、今夜の懇親会の参加費まだいただいていなかったので。今大丈夫ですか」
「あ、うん。もちろん」
里見さんのその言葉に、そういえば今日は半年に一度の部署混じっての懇親会があったことを思い出した。
営業部は今回経理部との懇親会だったか。
ポケットから財布を取り出し、そこから5000円を払う俺に、里見さんは手にしていた名簿に支払い済みとして丸を記入する。
そしてその場で手書きの領収書に『中村侑吏』、と形のよい字で記入する彼女に、思わず感心してしまう。
「里見さんすごいね、名前覚えてくれてるんだ。うれしい」
『侑吏』という名前は、あまり馴染みがないせいか普段苗字で呼ぶ相手には覚えられていなかったり、漢字を間違えられることが多い。
そのため、一発で正しく書いてもらえたことがうれしくてつい声に出すけれど、彼女は冷静な眼差しを俺へ向けた。
「仕事柄皆さんの名前はよく目にしますから。別に覚えてるのは中村さんだけではないです」
その言葉はまるで『特別だと思わないで』とでもいうかのようだ。
どうもとっつきづらい印象の彼女に、気を取り直して話題をふる。



