俺は生まれてからの28年間、要領よく生きてきた。



幼い頃から周りに女の子が多く、そのため異性の扱いはそれなりに慣れている。

それに加えて自分ではよくわからなかったけれど、俺の顔は女の子たちいわく『イケメン』という部類に入るらしい。

それだけで平均的な身長も、成績も運動神経もよく見えるようで、なにもしなくても周囲に人が寄ってきた。



もちろんそのせいで、学生時代には同性からやっかまれたり、先輩から呼び出され囲まれたこともある。

けれどどんな相手にも平等に、笑顔を作って話を聞いて、丁寧に接することで大抵はどうにかなった。



心の中では『面倒くさい』『うるさい』『くだらない』と思っても、本音は一切こぼすことなく、笑顔のまま。

相手が期待し望んでいるであろう言葉で返すだけ。

それだけで人間関係なんてどうとでもなる。



それは大人になってからも同じで、就活も大きな苦労なく決まり、そこからの人脈を活かして転職をし、今では新宿にあるこの大手医療品メーカーでMRとして働いている。

営業成績も上の中といったところでそこそこよく、給料も申し分ない。

先日恋人とは別れたばかりだけれど、今はこの自由な時間を楽しんでいるところだ。



ひとり廊下を歩いていると、経理部手前にある給湯室からなにやら話し声が聞こえた。