「そんなこと、ないです」
「え……?」
「言えなくても叶わなくても、想った時間や頑張ったことは無駄になんてなりません。あなたといた時間もきっと、大切な彼の一部ですよ」
私といた、時間も。
そういえば辰巳も、言っていたっけ。
『今の俺があるのは、初音のおかげ』
そう、優しく笑って言ってくれた。
「それに、その気持ちはこれからのあなたの一部にもなっていくはずです」
「これからの……?」
つぶやいた私に、彼女はうなずく。
「苦しみ悲しんだ後悔は、気持ちを伝えることの大切さを教えてくれる。彼を想った恋心は、誰かを愛する尊さを教えてくれる。
だから、無駄なんて言わないでください。小さな花ひとつひとつに意味があるように、その恋ひとつにもちゃんと意味はあります」
その言葉とともにこぼされた小さな微笑みに、ほんの少し心が軽くなるのを感じた。
ハンカチを受け取り涙を拭うと、ほんの少し甘い柔らかな花の香りがしてホッとする。
言えないまま、叶わないままのこの恋にも、ちゃんと意味がある。無駄なんかじゃない。
そう言ってもらえて、よかった。
それだけでほんの少し、私は私を好きになれる。
彼を好きでいた自分が、愛しく思える。



