愛がなくても、生きていける




「いらっしゃいませ」



店の奥から出てきたのは、先日もいた女性店員だ。

黒く長い髪をひとつに束ねた彼女は、私と同じ歳くらいだろうか。

相変わらず愛想はないけれど、よくよく見ると小さな輪郭と高い鼻、きれいな二重と整った顔をしている。


ついその顔をじっと見てしまう私に、彼女は不思議そうにたずねた。



「なにかお探しですか」



問いかけられて、ここへ来た目的を思い出して答える。



「はい。結婚式の、お祝いに贈る花束をお願いしたくて」

「そうですか。その方の好きなお花や色、あとはお客様が贈りたいお花などはありますか?」

「あー……いえ、思いつかなくて。なんでもいいので、予算の範囲でお願いしていいですか」



気力を振り絞り精いっぱいの笑顔をつくる私に、彼女はなにかに気づいたようにじっと顔をみつめる。



「本当ですか?」

「え?」

「先日の熱心に悩まれていた姿からは、そうは思えないんですが」



落ち着いたその声に、心の奥を読まれたように感じてドキリとした。



先日私が見ていたときのこと、覚えていたんだ。

……話して、しまおうか。

大きな声では言えない、本当の気持ち。



持っていたバッグのショルダーを握る手に力を込めて、恐る恐る声を吐き出す。



「……私、その人の結婚をお祝いする気になれないんです」



静かな店内に、ぽつりと私の声がひとつ響いた。



「すみません……いやな客で」

「いえ。お客様にもいろいろな方がいますから」



ほどよく距離感を保ちながらも、受け入れてくれるような彼女の言葉が心地よく、さらに本音を続けた。