愛がなくても、生きていける




私は、失恋した。

その現実を突きつけられた気分だ。



ふたりの間には入り込めない。今更、辰巳の特別になんてなれない。

彼が愛しさを抱くのは、彼女だけだから。



辰巳から『結婚する』と言われたときより、その薬指に指輪が輝くのを初めて見た日より。

たった数分、ふたりのやりとりを見ただけの今のほうがそのことを実感した。




脱力感を抱えたまま、なんとか仕事を終えて帰路についたのは20時近くのことだった。

なんとなく、まっすぐ帰宅する気にはなれなくて、私は会社のある通りから一本入った細い道を遠回りするように歩いていた。



灯りに照らされた街の中をひとり歩く、ヒールを履いた足が重い。



「……せっかく、告白しようと思ったのにな」



ぽつりと呟いた声は、誰の耳にも触れずに消えた。

けどあんなの見ちゃったら、告白しようなんて気持ちも失せる。



だってどう見たって辰巳、あの子のこと大好きなんだもん。

愛しくてたまらない、幸せだって、彼女を見つめる目が言っていた。

この6年、彼のそばにいた私だからこそわかってしまった。



「全部、無駄になっちゃったな」



これまで、辰巳を想った時間。

辰巳のそばにいたくて頑張った仕事。

告白しようと固めた決意。



全部全部、無駄になってしまった。

残ったのは、むなしさだけ。



ふと顔を上げると、視線の先には小さな花屋がある。

それは先日も見に来た花屋で、オレンジ色の柔らかなあかりの灯る店頭は昼間とは違う顔を見せている。



そうだ、花束の予約しなきゃ。

花の種類なんてもうなんでもいいや。適当に予算だけ伝えて作ってもらって、祝う気持ちが表面上でも伝わればいい。



半ばなげやりな気持ちで店内に入ると、時間からして当然というべきか客は誰もいない。

もうすぐ閉店時間だろうし、さっさと済ませちゃおう。