愛がなくても、生きていける




「あ、莉奈。紹介する。同じ会社で働いてる、同期の初音」



好きな人の恋人の前で、『同期』と紹介されることに、悔しさのような悲しみのようなものを感じる。

けれどそれに気付かれてしまわないように、私は笑顔をつくってお辞儀をした。



「榊初音です、はじめまして」

「あぁ、あの初音さん!」



彼女の前で何度か私の名前をだしたのか、彼女は聞き馴染みがあるような反応をする。



「初めまして、林莉奈と申します。いつも辰巳くんがお世話になってます」

「あはは、すっかり奥さんって感じだね」



からかうように言った私に、ふたりは目を合わせてから恥ずかしそうに頬を赤く染めた。

穏やかなふたりの空気とは相反して、この胸の中には薄暗く影が落ちるのを感じる。



……いやだ、見たくない。

もやもや、する。



ずるいよ。どうしてあなたなの。

私だって辰巳の隣にいたかった。

彼女として、奥さんとして紹介されたかった。

目を合わせて頬を染めて笑いたかったのに。

羨ましい、悔しい、ずるい、ムカつく。



醜い嫉妬心が込み上げて止まらない。



私の方が長い付き合いなんだって、過ごした時間だって長くて、いろんな顔を知ってるんだって、そんな言葉をぶつけてしまおうか。

そんな、黒い思いがよぎった――けれど。



「今日は早く帰れそうだからさ、式の準備とか終わってないことあれば手伝うから」

「本当?ありがと。ウェルカムボードがあとちょっとでできそうなんだよね」



彼女を見つめる辰巳の目は優しく、あたたかい。

その視線の温度が私に向けるものとは違うことに気がついて、込み上げていたはずの言葉が声にならずに失せていく。



……無駄だ。

どんな言葉をぶつけても、ただの妬みでしかない。

弱虫だった自分に、醜さが加わるだけ。



だけど祝うこともできない私は、なにも言えずに、脱力する足を必死に踏ん張って立ち続けるしかできなかった。