「また今月も井上がトップだよ」
聞き覚えのあるその声は、同じ飲料事業部の第二営業課の男性社員たちのものだ。
彼らはエレベーター前のベンチに座り話し込んでいるようだった。
私と辰巳は思わず足を止めて、耳を傾けてしまう。
「でもあれだけ数字とってるの見ると僻む気持ちも失せるよなぁ。本人もいい奴だし……そういや今度の食フェスの営業も井上中心で話進めてるらしいじゃん」
やはり、辰巳ほど目立つ存在なら男性社員たちのあいだでも話題にのぼるのだろう。
僻む気持ちすら失せてしまう、というのが日頃の辰巳の実力や態度を物語っている気がした。
「確かそれ、榊も一緒にやるんだって?俺的にはあいつが毎回2位にいることのほうがムカつくね」
けれど、続いて出てきたのは私の名前だった。
「確かに。女に成績上回られると俺らの立場ねーよ」
「どうせ取引先相手に体使って契約とってるんだろ。いいよな、女は簡単で」
笑いながら言う彼らの言葉は棘のように、心の奥に刺さる。
ムカつくって……なんでそんなふうに言われなくちゃいけないの。
たしかにもともとは、辰巳に追いつきたいという下心が原動力だった。
だけどそのために寝る間も惜しんで営業の勉強もしたし、プライベートの時間も使って取引先の対応もした。
その努力や我慢は確かなものなのに、どうして全部『女なのに』のひと言で踏みにじられなきゃいけないの。
……くやしい。
けど、ここで泣きたくない。こんな人たちの言葉に傷つきたくない。
その一心で、私はバッグを持つ手にぐっと力を込める。
ところがその瞬間、隣にいたはずの辰巳が一歩踏み出していた。



