「これだ……えっと、『スターチス』?花言葉は……」
花の特徴から花言葉へ読み進めようとした、そのタイミングでドアからあやめが顔をのぞかせた。
「あれ、凛。来てたの?声かけてくれたらよかったのに」
「作業中かなと思って」
「気遣わなくていいのに。今準備するからちょっとまってて」
あやめはドアを開けたまま、店内で黒いエプロンを外す。
「そういえば、大迫から連絡きたよ」
『大迫』、の名前にドキリと心臓が跳ねる。
「な、なんて?」
「清水と連絡がとれない、って。なに、喧嘩でもした?」
あれから私と大迫が何度か会っていることは彼から聞いているのだろう。あやめは私に対して事情の説明は求めない。
そんなあやめに私はしゃがみ込んだまま、小さく首を横に振る。
「喧嘩とか……そういうのじゃなくて」
感情や気持ちをぶつけ合う、喧嘩ならまだいいだろう。
だけどそうじゃない。
「私、高校の頃大迫のこと好きでさ……久しぶりに会って、一緒に過ごすうちに、やっぱり好きだなって思ったんだ。
すぐからかうし、そっけない態度のときもあるし。だけど優しくてあたたかくて……大迫といると、幸せ」
この胸に込み上げるのは、あの頃と変わらない思い。
愛想のない目つき、そっけない口ぶり、時々見せる笑顔と優しい手。
そのひとつひとつが愛しくて、好き。
「でも私が大迫といたら迷惑になるし……なにより、私には幸せになる資格なんて、ない」
「どうして、そんなこと思うの?」
不思議そうにたずねるあやめに、私は少し黙ると、呼吸をひとつ置いてから声を発した。
「前の会社にいた時に付き合ってた相手が、既婚者だったんだ。取引先の人で、付き合ってることを周りには言わないように口止めされてたから私も誰にも言ってなくて、だから彼が結婚してることも知らなくて」
年上で頼もしい人だった。
仕事で会ううちに自然と惹かれて付き合うようになって、このまま結婚に運ぶのかななんて未来を考えるようになった。



