愛がなくても、生きていける




発車のベルが鳴り、ゆっくりとメリーゴーランドが動き出す。

明るいクラシックにのせて、馬は上下に動きを始めた。



メリーゴーランドの輝きが、夜空をほんのり明るく照らす。

眩しいくらいの照明と、耳いっぱいの音楽に、今この場には私たちふたりだけのような錯覚を覚えてしまいそうだ。



心臓の音が、聞こえてしまいそう。

背中に触れる彼の胸板と、この手に重ねられる長い指に、鼓動がドクドクとはやくなるのがわかる。



「清水」



耳元でその低い声に名前を囁かれ、全身がゾクッと震えた。

そっと顔をあげると、すぐ目の前には大迫の顔がある。



落ち着いた真っ黒な瞳に、メリーゴーランドの光と私の顔が映り込む。

その目に魅入るように見つめた、数秒後。その顔がそっと近づいた。



先日の彼のベッドと同じ、シャンプーの香り。

そう思い出したときには、彼の唇は私の唇に触れていた。



ゆっくりと触れて、離れて、見つめあったままもう一度重ねられる。

他人の視線も気に留めないそのキスは、まるでドラマのワンシーンのようだ。



ふたりのあいだに、愛を誓うような言葉はない。

けれど、優しいキスとその熱い眼差しの前で、言葉など不要にも思えた。



……愛しい。

あの頃ずっと好きだった人。

高校卒業後、忘れようと誰かと付き合って、そのたび彼のことを思い出した。

その繰り返しでようやく忘れられた人。



だけど今、一緒に過ごして優しさに触れて、唇を重ねて……心が溶かされていく。

つらい失恋も、塗り替えてしまうほど。



『ごめん。実は俺……結婚してるんだ』



瞬間、ふと元彼の言葉を思い出す。

それと同時にメリーゴーランドは止まり、大迫が先に馬から降りた。