「小野寺。どうかしたか?」
「明日のスケジュールに変更が出ましたので、取り急ぎ口頭でご報告しておこうかと」
小野寺さん、というらしい彼女は大迫にメモ用紙を手渡すと私に視線を留めた。
「社長、そちらは……?」
「友人だ。たまたまこの前、仕事でも付き合いがあってな」
大迫の言葉に合わせるように、私は小さく会釈をする。
すると小野寺さんは私の様子をうかがうように、爪先から頭のてっぺんまでをまじまじと見た。
「ご友人……失礼ですが、お名刺など頂戴してもよろしいですか?」
「え?あっはい」
突然の名刺の提示の要求に、私は少し戸惑いながらもバッグから名刺を一枚取り出し差し出した。
「初めまして、フリーフォトグラファーの清水と申します。大迫……社長とは、学生時代の同級生でして」
『大迫社長』と慣れない呼び名を使う私に、小野寺さんは眼鏡の奥の少しつった目で名刺をよく見る。
「フリーフォトグラファー……ですか。主にどういったものを撮られるんですか?ずっとフリーでご活動されてるんでしょうか」
矢継ぎ早にたずねられ、「えっと」と動揺の声が出る。
これは、すごく警戒されているような……。
「主には観光雑誌やウェブ媒体向けの風景写真が多いです。元々はTC出版に勤めておりましたが、退職してフリーになった形ですね」
「その退職の理由というのは……」
さらに深掘りするように聞こうとした彼女に、大迫が間に入り私を背中に隠した。
「もういいだろ、個人的なことをあまり詮索するな」
「なにをおっしゃってるんですか。社長は今後メディア露出も控えてる大事な時期なんですよ!付き合う相手がどんな方か把握しておくのも秘書の勤めです」
「それはわかるけど、俺にもプライベートがあってだな……」
「プライベートでも関係ありません。今スキャンダルでも起こそうものなら、すぐメディアに叩かれますからね。くれぐれもハメを外すことのないように」
厳しい口調で言われ、大迫は「わかってるって」とうるさそうに流すと、私の手を引きその場を歩き出した。



