「そりゃあ、初音の驕りだったとしか言いようないでしょ」
その日の夜。
今日はほぼ定時で仕事を終え、渋谷にある居酒屋にやってきた。
薄暗い隠れ家のようなその店の半個室で、友人である妃那はビールグラス片手にバッサリと言う。
「驕りって……」
「だって、なにもしなくたって最後に選ばれるのは自分だって思ってたんでしょ?だから私は散々『早く告白しちゃえ』って言ってたのに」
正論とともに赤いネイルが綺麗に塗られた指先でビシッと指さされ、ぐうの音も出ない。
妃那は同じ大学に通っていた友人で、アパレル会社のバイヤーとして働いている。職種はまったく違うけれどたびたびこうして飲む仲だ。
辰巳への気持ちも唯一妃那には話していて、以前からいろいろとアドバイスをくれていた。
そんなこれまでのことを知っている妃那の言葉だからこそ、的確に刺さる。
「確かに言われてたけどさ……もしフラれたら気まずいじゃん」
「その気持ちはわかるけど、それで他の女に取られて終わってちゃねぇ」
呆れたように言う妃那のストレートな言葉がグサリと刺さる。
妃那の言う通りだ。
フラれたくない、気まずくなりたくない、だからこのままでいい。そんな気持ちでいたから、他の人に追い越されてしまった。
「わかってる、わかってるけど……わかってるんだよ~!!」
わああ、と声を上げて両手で顔を覆った私に、妃那は気に留めない様子で手元のサラダに箸を伸ばす。



