「じゃあ、お願いします……」



善は私から顔をそらして、小さくそう言った。

学校が終わってすぐにバイトがあったため、善は制服を着ている。
白いYシャツに深緑が混じったチェック柄のネクタイ。
Yシャツの第二ボタンまでは開いていて、そこに緩めにネクタイが巻かれていた。

とりあえずネクタイのかたまりの部分に指をかける。

……しかし、私はここで気づく。
生まれてこの方、ネクタイを結んだこともなければ触ったこともない。
そんな私がネクタイをはずせるわけがなかった。

いったいどういう構造なの⁉︎
お父さんが毎日スーツ出勤なのに、ネクタイがどうやって結んであるのかすらわからないなんて……娘として恥ずかしい。

そして、もうひとつ問題が発生。
思いのほか私の手と善の顔が近いということだ……。
息がかかる距離にあって、これは計算外。