「俺の近くに来たかったの?」



まったく予想していなかった言葉に、思わず息をすることを忘れてしまった。


善へ視線を移すと……善は腕組みをしたまま私のことを真っ直ぐと見ていた。
髪の間から見える色素の薄い茶色の瞳。
誰かの目を見てきれいだと思ったのはこれが初めてかもしれない。
まるで吸い込まれてしまいそう……。



「そうだったら……悪い?」


いつもは頭の中で整理してから話すのに、このときは気がついたら口が勝手に動いていた。

とっさに視線を逸らす私に、「俺も」と善はつぶやき、私の右手を優しく握った。

その瞬間ーー"好きだ"と強く思った。
むしろ、好きだという感情しかなかった。

車内にはたくさんの人がいるのに、まるで私と善しかいないような不思議な感覚だった。


それから私たちは話すこともなく、駅から家まで手をつないで歩いた。
誰かにバレたらどうしよう、とか、善みたいなかっこいい人の彼女がこんな地味な私でバカにされていないかな、とか、いつも気にしてることはまったく気にならなかった。