「か、川西先輩っ」

川西先輩は立ち上がるとこっちへ歩いてきて、岸会長の横に立つ。
川西先輩のほうが会長より少しだけ、背が高い。

「前の日、陽菜子ちゃんからお菓子もらったって言ってたじゃない。岸くんが疲れた様子だったから、陽菜子ちゃんだって気を遣って、作ってきてくれたんでしょ。そんなこともわかんないの?」

少しトゲのある口調で川西先輩にそう言われて、岸会長は目線を下にそらす。

少し考えて、再びわたしのほうを見て、

「……そこまで、気遣わせてたのか。悪かった」

って、眉を下げて謝ってきた。

「え、えっと……気遣う、っていうか」

「今回の結果は俺のせいだ。もう、今後はあんなこと、しなくていいから」

会長は気まずそうにそう言って、わたしに背を向けて自分の席へともどった。
『あんなこと』っていうのは、クッキー作りのことだよね。

でもわたし、会長に”美味かった”って言ってもらえて、すごく嬉しかった。

会長を「気遣った」わけじゃなくて、本当の理由はー……

「ちがいます。会長」

心臓がドキドキして、倒れそうなぐらいなのに、不思議と周りの音は聞こえなかった。

「わたし、ただ気を遣って作ったわけじゃなくて……、実は」

気持ちを伝えて、『うまくいく』とか『うまくいかない』とか、結果はどうでもよかった。
ただ、自分の意思で、そうしたくて行動したんだよ、って。
この気持ちを、会長に知ってほしかったから。


「会長のことが、好きになってしまって……」


言い切った、と思ったところで、急に頭が冷える。

うつむいたままだった顔をあげると、……見るからに困った顔の会長がいて、「失敗した」って理解した。

「あ、あの、えっと! だからって別に、会長とどうにかなりたいとかは、思ってなくて」

「……おい」

必死にフォローしようとすると、ばちっ、と目が合って、会長の眉間のシワはさらに深くなった。

(え、フラれる? そりゃ付き合えるとは思ってなかったけど、今ここで……?︎)
会長からの拒絶の言葉を覚悟して身構えたけど、……出てきたのは、予想の斜め上の言葉だった。