でも、今までだって会長とすごく距離が近かったことなんて何回もあったし、その素敵な声の魅力に惹かれたこともあったけど、……こんなに、心が乱れたことはない。

「でもアレだね、ほんとに勉強の成果出てるみたいだし、岸くんはまるで陽菜子ちゃん専属の家庭教師だね!」

家庭教師。妙にしっくりくるけど、関係的に遠いような、近いような……。

「あ、岸くんちょっと笑ってる! まんざらでもないんだ」

「笑ってない」

「うそだー。あ、でも岸くん将来、先生になりたいんだもんね! 」

「……!!」

川西先輩の発言に、慌てたような表情の岸会長。その顔は、少し赤い。

「会長、先生になるんですか?」

「……関係ないだろ」

「恥ずかしがるような夢じゃないじゃん!」

会長が、将来は先生に。
きっと、鬼教師だ。テストではすごく難しい問題つくって、生徒指導なんかもしちゃって、生徒に嫌われて……。だけど、だけど。

「すっごく、合ってると思います……!」

岸先生、の受け持つクラスはきっとみんな頭がいい。
実際に教われば、彼が本当は優しいってことはすぐわかる。クラスのみんなには凄く慕われる。そんな様子が、簡単に想像できる。

「じゃあわたし、会長の生徒第一号ですね」

岸会長は目を見開いて、わたしを見ていた。
だけど照れたように目をそらして、ボソッと「まぁ、そうなるな……」ってつぶやいた。


……その瞬間、ぶわっと、まるで風が吹いたみたいに。

会長のこと、 好きだ、って、思ってしまった。

この数日、そんなわけない、あってはいけない、と認めてこなかった気持ち。

だけどわたし、会長の夢が知れて嬉しい。応援したい。
そしてできるなら、夢が叶ったときの会長の姿が見たい。