「急にいなくなったから、私は先に買っちゃったよ? 陽菜子も早く選びなよ!」

「う、うん。ごめん」

 長沢先輩と会長のことが気になりつつも、購買の残ったパンの中から食べたいものを選ぶ。
その場にいるのは、わたしとアキと、購買のおばちゃんだけになってしまっていた。

 一番人気らしい焼きそばパンは売り切れ。
適当においしそうだと思ったものを手に取ったわたしの隣で、とつぜんアキが声をあげた。

「あ! クッキー残ってる、めずらしい!」

 そう言ってアキが指差した先を見ると……昨日、岸会長がわたしにくれたクッキーの袋が一つだけ残っていた。

「購買のクッキーって人気で、一人一つまでなんだよ! 今日もとっくに売り切れちゃってたと思ってた」

(え、……一人、一つまで?)

 アキの言葉に、片づけをはじめていた購買のおばちゃんが振り返る。

「ああ、なんかのパンの下になってて気づかれなかったのかもね。……そういえば」

 クッキーを見てなにかを思い出したらしいおばちゃんが、笑いながら話し始めた。

「昨日かな、眼鏡かけた男の子が……「チョコとイチゴ、一袋ずつ売ってくれ」って頼んできてね。最初はダメだって言ったんだけど、「どうしても食べさせたいやつがいるんだ。そいつ、毎日頑張ってるから」なんて言うもんだから……。他に見てる生徒もいなかったし、売っちゃったのよ。若いって、いいな~なんて思って!」

 アハハ、と声を出して笑ったおばちゃんは、「今の話ナイショよ」と言って、その売れ残ったクッキーをわたしたちにくれた。

 喜ぶアキの隣で、わたしの心臓のドキドキはおさまらない。
 だって、それって……!