「その過程で、勉学にも励み、一学期の期末テストでは学年順位を100以上上げました。そして生徒会の雑務も完璧にこなしてくれた。……正直言うと、僕は途中で、投げ出すと思っていた」

(え……)

「ですが、そんなことはなかった。実際にこの選挙も、彼女はたくさん迷いましたが、最終的には自分の意思で立候補した。……僕は生徒会長として、受け継いだ伝統を「守る」ことだけにとらわれていましたが、それだけではダメだったと、橋本さんが教えてくれました」

泣いてはいけない。
そう思えば思うほど、鼻の奥がツンとして。

どうにか別のことを考えて紛らそう、なんて思うんだけど、優しく響く会長の声がそれを許さない。

「……僕はもうすぐ生徒会長としての任期を終えます。僕ができなかった「改革」を、そしてそのための努力を、彼女は生徒会に入ってきっとやってくれる。……僕は、彼女……橋本陽菜子さんを、生徒会庶務として、推薦します」

そこまで言い終えて、岸会長はマイクを置く。

台本も何も持たず、真っ直ぐ前だけを見つめて話す会長の、堂々とした演説。
時間にしたらたった数分だったけれど、わたしにとっては宝物のような濃い時間だった。

(……ああ、だめだ、ガマンできない)

ただ嬉しくて、それと同時に、どこか苦しいような気もして。

ダメだと言われていたけれど、会長にバレないように一粒だけ涙をこぼした。