「さおりちゃんの妹ちゃん、生徒会に入りたがってるの?」

「興味あったみたいだから、後押ししたの。もちろん推薦人には、わたしが付く」

篠塚先輩の問いに答えた長沢先輩は、強気な微笑みを浮かべた。

そう、選挙に出るときは必ず一人、「推薦人」を付けなくてはいけない。
候補者本人の演説とともに、推薦人も壇上にあがって挨拶しなければならないのだ。

つまり、ネームバリューがある人ほど推薦人としての影響力が高い。

生徒会副会長の長沢さおり先輩、と言ったら1・2年の男子生徒に大人気だ。
ひかりちゃん自身も可愛いから、2人で壇上に上がったら美人姉妹として注目を集めるだろう。

「わたしは橋本さんの応援はできないけど、頑張ってね。選挙、楽しみにしてるわ」

ひとかけらも思っていないであろう言葉を口にして、笑ってみせる長沢先輩が怖い。
いつかの「戦線布告」を思い出してしまう。

「……失礼します」

「あっ、陽菜子ちゃん⁉︎」

気まずい雰囲気に耐えられなくて、生徒会室を飛び出す。
岸会長はまだ来ていないけど、長沢先輩と同じ空間で待つことはできない。

……正直、選挙にでるかどうか、ぐらついている自分がいる。


当選するかわからない、……当選しない確率のほうが高い選挙に、堂々と出られるほどメンタルが強くないんだ。

それから、夏休みに連絡先を交換して何度かたわいもないやり取りをしたひかりちゃんは、本当に性格がよくて。

いっそのこと長沢先輩みたいにイジワルだったり、高飛車だったりしてくれたほうが引け目を感じなかったかもしれない。

……そしてこの後。残念なことに、悩む原因がもう一つできてしまう。