「おい、ひかり……わかったから、離せ」

「あ、ごめんなさい! でもお久しぶりですね。棟が違うと学校ではなかなかお見かけしません」

「確か情報学科だったよな。普通科とは完全に校舎離れてるからな」

「はい。でもわたしは全校集会とかで岸さんのこと見てましたけどね!」

親しげなふたりの会話に、全くついていけなくて立ち尽くすわたし。

どうやら彼女は同じ学校の人みたいで、しかもわたしたちのいる普通科より偏差値の高い、情報科学科の人、らしい。

会長の言う通り、普通科とは違う、情報科学科と英文学科の人たちは別棟に教室があって。
パソコンの授業とかがない限りは、わたしたちがそちらの棟に行く機会は少ない。

(でもこの顔、やっぱり見覚えがある。どこで見たんだろう……)

「こうやって話すの、お姉ちゃんと岸さんが仲よかった時以来ですよね」

「……おい、その話は……」

「あっ、ごめんなさい、つい」

……その会話で、わたしはやっと気づいた。

長いまつ毛に彩られた、意志の強そうな目。
さらさらの黒髪、すらっとした体型。

生徒会副会長であり、岸会長のことでわたしに「宣戦布告」をしてきた長沢さおり先輩に、似ているんだ。
だから彼女とははじめて会った気がしなかったのか、と納得する。
そして、『お姉ちゃん』ってことは。

「もしかして、長沢先輩の……?」

思わず呟いた言葉で、彼女はようやくわたしのほうを見た。
長沢先輩と同じ目で見られると、つい怖気付いて肩を強張らせてしまう。