てっきり川西先輩からの着信だと思っていたわたしは、驚きでなにも言えなくなる。

『……ん? おい、聞こえてるか』

「は、はい! え、……会長……?」

『ああ。つーか、声だけでよくわかるな』

わかるよ。間違えるわけない。
ずっと、「聞きたいな」って思っていた声だから。


「な、なんで、電話。連絡も……」

慌てていて、自分でもなにを言ってるかわからない。
そんなつたない言葉から、会長はわたしの疑問を聞き取って答えてくれた。

『番号は今、川西から聞いた。……悪かったな、夏休み入ってすぐ、スマホ壊しちまって』

「え?」

『そのまま機種変更になったからアプリ取り直したんだけど、引き継ぎ設定してなくて。アドレス帳に登録してる相手しか、連絡先残んなかったんだよ』

「そう、だったんですか……」

『あと塾の夏期講習が忙しくてお前に連絡とるの遅れた。悪い』

「いえっ、そんな」

少し不安だった気持ちが、会長の言葉で晴れていく。
事情があってわたしに連絡できなかった、ということを会長が気にしてくれていたのが嬉しいと思ってしまった。

『今、大丈夫か』

「は、はい」

『一人でもちゃんと勉強してたか』

「……」

『おい』

黙ったわたしの反応で察したのか、電話の向こうで会長のため息が聞こえる。

『……ったく、しょうがねーな』

一瞬、呆れられたのかなって不安になったけど、次に聞こえたのはわたしがのぞんでいた言葉。

『お前、いつ暇だ。勉強会やるぞ』

「えっ」

『どうせ宿題すら進んでないんだろ。見てやるから暇な日教えろ』

「いっ、いつでも暇です!」

実際、アキとミナミと漫画の原稿に入るまでは特に予定もない。
会長が「暇人かよ」と言って笑ったのがわかった。