Young days

伊織がやっと、部屋に戻ると七琉美とのキスが頭を一杯にさせる中で最後に言われた言葉を思い出し、ハッとして時計を見た。

【12:08】

伊織は慌ててカーテンを開けた。
窓の向こうで一瞬驚きながらも嬉しそうに笑顔を見せる流唯。その手元に見えるうちわの文字は"いおり オメデトウ"の方だった。
それを見て、涙が溢れる伊織。開けたくてたまらない窓…。鍵に手を当てるも、開けられずにいた。

『…なんだよ?そんなに感動したか?』

笑ってるのに泣いてる…。
そんな伊織に、流唯はドヤ顔でうちわを掲げると、自分を指差し、うちわの逆の面を見せた。

"オレ ナンバー1"

それは、1番最初に"おめでとう"を言ったのは俺だ…という意味で、流唯の言いたい事がちゃんと伝わった伊織は笑顔が作れなくなる程涙で滲むメッセージとなった。

『泣くなって!え、何?もしかして俺やっちゃった?ロマンチック!?』

そんな独り言が閉ざされた窓の向こうの伊織に届く筈もなく、両手で涙を拭った伊織は窓越しに"ありがとう"と呟き、ペコッと頭を下げて精一杯微笑むとカーテンを閉めた。

『…は?なんつった?…ま、いっか。照れてんだなアイツ。』

そう言って窓を閉めると流唯は満足気な顔でベッドへと沈んだ。


伊織はその場に座り込み泣いていた。
何に泣いているのかも分からなくなる程溢れ出る涙。これまでに感じた事のない驚きと、衝撃、喜びと、後悔…複雑な感情がこの短時間で一気に伊織を掻き乱していた。

伊織にとってのファーストキスは七琉美にとっても同じ事…。

七琉美もまた、自分の衝動を止められなかった不思議な感覚に戸惑って眠れぬ夜を過ごしていた。

今日の今日まで、告白するつもりもなかった自分が振られる覚悟を決めた事すら、七琉美にとっては一大決心だった筈なのに…何故あんな大胆な事が出来たのか、自分で自分が分からなくなる程だった。