Young days

七琉美はゆっくり衣千華に近付くと、そっと背中から抱きしめた。


『ごめん…そんなに震えないで。』



衣千華はビックリして固まった。



『…やだ…私ッ…汗臭いよッ……。』



『…震え止まるまで…こうしてる。』



『……ずるぃよ…ナル…私をフリに来たんでしょ…?』


『…母さんが死んだ時…衣千華もこうしてくれたから。』



衣千華はまだ七琉美に想いを寄せる前の事を思い出した。七琉美の母の通夜の晩の事だ。
目を真っ赤にして衣千華の家族を見送りに出て来た七琉美が深々と頭を下げて会場の中へ戻ろうとした時。衣千華だけが引き返して七琉美を背後から強く抱きしめた。

"我慢しなくていぃからね。男だってね、人前で泣いていぃ時がある。ナルにとっては…それが今だよ。"

七琉美はその言葉を聞いて、それまで我慢していたモノが一気に溢れ出たのだ。

"私、見てないから…振り向かずに戻って"

そう言って七琉美から離れた衣千華は七琉美がゆっくり中へと肩を震わせ戻って行く後ろ姿を見届けて帰った。



『……俺、あん時衣千華に救われたから。今でもずっと、感謝してる。だから…衣千華にはこれまで通り側に居て欲しぃんだ。』



『………ぅん。』


衣千華は笑顔で頷いた。何度も何度も頷いた。



ゆっくり衣千華から離れた七琉美は、衣千華の身体の向きを自分の方へ向かせ両手で衣千華の頬を包んだ。


『…えっ?』


『…やっと顔見れた。』


七琉美は優しい笑顔で衣千華を見つめた。


『今笑うとか、ホントずるぃ…。』


真っ直ぐ七琉美を見つめ返した衣千華。それはとても切ない笑顔だった。