Young days

七琉美は人混みを抜け家に戻ると、そのまま父の部屋へ向かい、そぉ〜っとドアを開けた。数年ぶりに入る父の部屋。懐かしいような香りがした。部屋を見渡し机の上に並べられた2つの写真立てを見つけた。まだ幼い七琉美が写る家族写真と、母が1人で微笑む写真。七琉美は母の写真を手に取った。

『…母さん…。約束したんだよ…父さんと。だから連れてくね。花火見よぅ…一緒に。』

そう言ってリュックを開くと、そっと中に写真立てを入れ部屋を出た。ゆっくりドアを閉めると、七琉美はリュックを前に担いだ。家を出てハワイアンBARへ向かう最中も人混みの中で前に担いだリュックを、まるで母親を守る様に大事そうに抱えていた。


七琉美が浜茶屋に戻ると、その姿に莉乃は首を傾げた。


『氷、2袋分ぐらいは出来てたよ。』

『サンキュ〜。』

『鍵、金庫戻しとく。』

『おぉ。衣千華〜ッ!ナルにカレー!』

秀晴が叫んだ。

『ゆっくり食えよ!』

『うん。』

七琉美は一旦奥に入ると、ゆっくり、そっと下ろしたリュックを置いた。

金庫に鍵を戻し衣千華の前に行くと、カレーの皿を受け取った。

『はい!』

『ありがと。』

七琉美は盛られたカレーを見て、ある事に気付いた。それはとても些細な事だ。olu'oluのカレーはご飯がお椀型に盛り付けられる。カレーはカレー用に決められた少し深めのお玉で丁度ひとすくい。これが、秀晴のカレーとルーの黄金比率だと言うこだわりだからだ。

衣千華が七琉美に渡したカレーはご飯が平らになっていた。

『やっといた!』

衣千華はしゃもじを見せて笑った。

『うん。』

七琉美は、少し笑った様にも見える際どい表情で振り返ると平らにされたご飯を見ながら衣千華に背を向けて紛れもなく笑みを浮かべた。