前の家を出発して、三時間は経っただろうか。大月(おおつき)愴璽(そうじ)を乗せた黒のプリウスは山道をひたすら走っていた。

「愴璽。もうすぐだぞ。私達の新しい我が家が」

 愴璽の父がニコニコしながら言った。

「へぇ」

 その時、ひたすら走っていた山道を抜け出した。──盆地に広がっている、日光に照らされた住宅街。まるで、愴璽達の到着を待っているかのようだった。

「デカい町だな」

 愴璽は感情を入れずに言った。

「絶対思ってないわよね?」

 愴璽の母は、自分の息子をチラ見して言った。

「なんて言う町だっけ?」
「確かー、四境(しきょう)じゃなかったか?」
「四境ねぇー」
「なんだ?どーした?」
「……なんでもない」

 そう言った愴璽はポケットからスマートフォンを取り出した。

「オヤジ、これ見てくんね?」
「無理だ。後にしてくれ」

 愴璽はスマートフォンをポケットにしまった。
 愴璽のスマートフォンには、wikipediaの情報が画面いっぱいに書かれていた。

『四境市。1965年、奥町との合併で生まれた。合併時の市名は死境』

「……本当なのか?この情報」

 少々考えている内に、新居に到着した。
 黒のプリウスを降りた3人は新居を目の当たりにして、

「やっぱりデカいな」
「3階建てなのよね?」

 両親は新居の目の前でぶつくさぶつくさ話し始めた。
 愴璽は呆れてしまい、母から借りた合鍵で新居に入って行った。
 新居の中は見た目よりも広く、リビングは開放感があって、快適そうだった。

 ──2日経ち、愴璽は2階の一部屋で、転校先の中学校の制服を着ていた。すると、部屋に愴璽の母が入って来た。

「似合ってるじゃない?」
「……そうか?」
「うんうん。いい感じよ」

愴璽の母はそう言い、愴璽の机の上に弁当箱の入った袋を置いた。

「弁当箱?なんで?」
「今日は何故か弁当らしいよ?」
「へぇー」

 愴璽は適当に返事をし、弁当箱の入った袋を鞄の中に入れた。
 愴璽は玄関まで向かい、

 「じゃあ、行ってくるわ」

と言い、玄関の扉を開けた。