「海鋒凪沙」
「へ」
「ここの家主、兼、お前の雇い主」
「ナギサちゃんね」
ピ、と。またしてもカードキーっぽいものが、眼前の隔てを解いた。
がちゃりとそれを開き、声をかけることなく靴を脱ぎながら悠真は情報を落としていく。それを拾い、反復する。ナギサちゃん。名前は可愛い。名前、は。
「あと一応、言っておくけど」
「ん?」
「手ぇ出すなよ」
「え」
「言ったろ、ダチの妹だって。本気なら俺は口出したりしねぇけど、お前の女関係も褒められたもんじゃねぇからな」
なんて、まだ見ぬ雇い主に対して失礼なことを考えていれば、前を歩く悠真が肩越しにこちらを見る。
「えー……俺、大学辺りから浮気も二股もすンのやめたぞ?」
いやいや、俺にだって選ぶ権利はあるんですよ。
とは、言わなかった俺を、俺は褒めたい。へらりと笑って冗談交じりのそれを吐き出せば、悠真は呆れたとばかりにため息を吐き出した。
「も、って言ったろ」
「へ」
「凪沙の男関係もあんま褒められたもんじゃねぇんだよ」
「あー……ね、」
ああ、なるほど。
そう納得したところで、またしても眼前に扉が現れた。