俺が居たら気まずいだろ。
 そう言って、悠真の背中を押して、どれくらい経っただろうか。
 保育園児くらいの子供を連れた女の人が二組くらい来て、俺に(いぶか)しげな視線を向けながらも、砂場で子供達を遊ばせていた。そのうち、ランドセルを背負った子供達が滑り台で遊び始め、この子供達が帰り始めると、自転車を押しながら歩く中高生達が公園の横を通っていった。
 昼飯食いに出てくる頃だからと送り出してからそれらをずっとぼんやりと眺めていたら、いつの間にか視界は橙に染まり、カラスまで泣き出す始末。
 もう夕方か。夕飯、作ンねぇと。
 そう思うのに、身体はぴくりとも動かない。帰らなきゃと思うのに、それと同じくらい帰るのが怖かった。
 多分、ねぇとは思う。けど、告白、否、プロポーズをして、されて、そのテンションのままベッドになだれ込まれていたら、なんて一瞬でも考えてしまったら、もう、ダメだった。きっとそのままの流れでお高いフレンチだのイタリアンだの食べに行くンだろ、どうせ。
 なら、俺のメシなんて要らねぇじゃん。つうか、そうなったら、俺、要らねぇじゃん。てか、そうか、俺、要らなくなるンだったわ。
 はは。だっせ。

「ゲンくん、見っけ」
「っ!」
「どしたの、こんなとこで。迷子?」

 なんて自嘲していれば、ひゅいっと視界の端から覗き込んできた何か。
 
「う、え、あ、なん、で、」
「ん? だってゲンくん、携帯置きっぱで出たっきり帰って来ないんだもん。探しに来た」

 違う、そういう意味じゃなくて。
 そう吐き出そうとするも、視界を占めるナギサちゃんの若干の上目遣いに、はくりと唇が無意味に動いただけで音は出ない。
 やべぇ可愛いエロい舐めたい。

「帰ろ、ゲンくん」

 そんな(よこしま)な思考に染まった俺の脳みそをよそに、彼女はへにゃりと微笑んで俺に向かって手を差し出した。