彼女にフラれ、ナギサちゃんへの気持ちを俺に吐露(とろ)したからか、悠真は週に一度、土曜の夜に家に来て、泊まって、日曜の昼頃に帰っていくようになった。
 とはいえ、ナギサちゃんは仕事部屋から滅多に出てこないし、出て来ても二、三言話すだけ。「来てたの?」「仕事お疲れ様」「絡まないでよね酔っぱらい」彼らの会話はだいたいこんなカンジで形成されている。
 だから多分、ナギサちゃんに会いに来ているというよりは、俺への牽制(けんせい)なんだろうなと思っていたのだが、「見てりゃ分かる」とさっき悠真が言ったように、まさにそうだったのだろう。

「……別に、告るつもりねぇから、俺」
「……へぇ」
「……ンだよ」
「俺は、言う」
「へ」

 たったひとりの友人と好きな女性(ひと)が被るだとか、そんな展開、何ひとつ望んじゃいなかったけれど、人の気持ちなんて、他人はもちろん、自分自身にでさえ、どうにもできない。

「海外への転勤が決まった」
「……ま、じか、」
「プロジェクト、任されたから、最低でも五年は帰ってこねぇ。まぁ、向こうに行くのは半年後だけど」
「す、げぇ……じゃん、」

 そんな綺麗事を並べて、防衛線をはって、へらへら笑って、精々己を守る。

「だから、凪沙にもついてきて欲しい、って……告白っつうより、プロポーズ、しようと思ってる」
「そ、か……なら、俺、」
「……」
「転職先、探さなきゃだな!」

 そんなことしか、俺にはできない。