悠真は、鈍い人間ではない。もちろん、色恋に関しても。

「なぁ、玄」
「ん？」
「手ぇ出してねぇだろうな」
「は？」
「凪沙に」
「出してねぇよ」
「なら、いい」

　だから、彼女の、ナギサちゃんの気持ちに、気付いていないはずはないと思う。
　気付いていて、知っていて、でもそれに応えることはせずに、こんな風に周りの男を牽制(けんせい)するのは何故なのだろうか。

「……いや、てかさぁ、出さねぇけどさ、」
「ん？」
「何で、悠真がそんな必死こいてンの？」
「……」
「そもそも、ナギサちゃんとこ紹介したの、悠真じゃん。そんな気にすンならしなきゃよくね？　てか、彼女にフラれた途端ここに来てそういうこと言う悠真の方こ…………ごめ、なん」
「言えよ」
「や、ごめん。何でもねぇよ」
「言えよ」
「……」
「……っ、しょうがねぇだろ。アイツのこと忘れるために女作っても、そういうのすぐにバレてフラれるし」
「……わす……え？　どういうこと？」
「あ？　聞いてねぇの？　俺らのこと」
「いや、わざわざ聞かねぇだろ。てか、今のでだいたい把握した」

　問いかけて、そこそこ早い段階で得られた答え。
　初日にナギサちゃんが「生きている人間には」と言っていたから、俺の知らない過去に悠真は大切な人を亡くして、その人への想いを引きずったままなのだろうなと予想していた。多分、ナギサちゃんだって、そう思ってる。

「……好き、なンか……？　ナギサちゃんのこと、」
「……ああ、」

　しかし蓋を開けてみれば、どうだ。

「……好きだ」

　彼らは、巷(ちまた)で噂の、両片想い、ってやつらしい。