その笑顔にどきりとした。
 なんて、言えるわけもなく。結局、彼女が試着しまくった末に選んだパーカーの色違いと、それとセットになっている下に履くものと、靴に靴下、そしてリュックを買われた。「お揃いだねぇ」とへにゃりと笑った彼女にギャップ萌えなどしていない。断じて、していない。
 その後、携帯を受け取り、ランチを食べ、この一週間ほどたったの二着を着回していた服や下着類をいくつか買ってもらい、夕飯はどうしようかという話の流れになった。

「今から帰って作れば八時くら」
「違う違う。何食べる? って話だよ」
「え」
「今日は定休日なんだから、美味しいもの食べて帰ろ」

 当たり前のように彼女が言う、この【定休日】。毎週水曜日が彼女にとってのそれらしく、彼女は、定休日には絶対仕事をしないと決めているらしい。(ゆえ)に、俺も水曜日は家事をしなくていいと言われているけれど、そもそも家事に休みなどありはしないし、しないと何だか気持ち悪いし、何より本日は【特別手当て】をもらっている。

「いや、でも、」
「何食べる?」
「あのさ、」
「和食? 洋食? 中華?」
「うん、いや、だから、」
「私はお肉食べたい。お肉」
「うんまずは聞こうか、俺の話を」
「何食べる?」
「っだからさァ!」

 作る。働く。貰った金銭分は、役に立たねぇと。
 そんなあってもなくてもいいようなプライドを振りかざすも、彼女の飄々(ひょうひょう)とした態度は崩れない。

「真面目だねぇ、ゲンくんは。家着いて、ご飯が出来上がるまで待てないんだよね、私のお腹。だから食べて帰るよ。特別手当て支払ってますので、どうぞ従ってくださいまし」
「っ、職権乱用……!」

 ふふふっ。
 悪戯に笑う彼女を見た瞬間、とすっ、と心臓の辺りに何かが刺さったような気がした。