「あえて空気読まない系? 上っ面だけでもいいから当たり障りなくいこうと思ってたの、私だけだった?」

 あからさまに吐き出された、ため息。呆れたと言わんばかりに(すが)められた、泣きぼくろのあるタレ目。これが本来の彼女なのだろう。何となく、あの抉るような視線を向けられたときから気付いてはいたけれど、目の当たりにすると何というか、ヤな女だ。

「あー……ごめん、我慢できなくなって口から出た」
「Curiosity killed the cat.」
「っえ、え?」
「ま。キミの言う通りだよ。で? それが何?」

 ヤな、女だ。
 飄々(ひょうひょう)としたその態度にひくりと口端が動く。
 イエス、もしくは、ノー。返答がどちらであれ、「そっかぁ~」で終わらせる気だったけれど、恋人だと思ってた女にペット扱いされたことや追い出されたこと、挙げ句の果てには悠真に彼女がいたことへの鬱憤(うっぷん)が募り募って、喉をかけ上がってくる。

「別に? 悠真、先週彼女できたって言ってたな、って思っただけ」

 子供じみてると自分でも思った。そのことを知らないであろう彼女にわざわざ言う必要なんてない、と。
 でも、そうした。言葉にして、投げつけた。吐いた唾は呑めぬというのに、吐いて、そしてすぐに、後悔した。

「で?」
「え、」
「生きてりゃ人間溜まるもんは溜まるしそりゃ彼女のひとりやふたりぐらい作るでしょ、普通」
「は? や、妬いたり、しねぇの?」
「しないよ。生きてる人間には」
「は? え? いき……?」
「こっちの話」
「……え、えぇ……?」

 どうやら彼女は、【生きてる人間】とは同じ土俵に立っていないらしい。